ちょっとややこしいYakシリーズ【増補改訂版】


更新履歴 (内容に変化ないものは除く)

[2022/05/02] リニューアルというほどではないが、解説文を全面的に見直した。読みやすくなった?
[2017/08/14] fc2から引っ越し?
[2016/01/18] fc2 Blogにて初投稿

戦中におけるYak機と言えば、Yak-1から始まる戦闘機シリーズが有名だ。

 

最初にYak-1があって、複座練習機が元のYak-7が来て、中期にはYak-9というのが出て来た。そして後期にはYak-3という、何故か数字が遡ったものが現れ……あれ、"Yak-5"はどこ行った……?となるやつである。

 

なぜ '1' の次が '7' なのか、「1→7→9」と来て '3' になったのか、Yak-5はどこに行ったのか、Yak-1とYak-7ってどう違うのか……。

 

という訳で今回は、Yak-1の姉妹機たちから始まるYakシリーズの話をしていこう。


全ては、I-26という機体から始まる。

 

I-26は、ヤコヴレフが設計した液冷高速戦闘機だ。液冷のM-105Pエンジンと細身な胴体を持つ、それまでのソ連機とは大きく異なるスタイルの機体であった。

pic01:I-26 試作戦闘機の一号機、それまでとは異なるスマートな外観を持った≪Красавец≫ ”美男子”
Photo from:http://www.airwar.ru/enc/fww2/i26.html

ヤコヴレフ設計局は、I-26の他にもいくつかの試作機を設計・開発していた。高高度戦闘機 I-28、高火力戦闘機 I-30、そして戦闘練習機 UTI-26がそうだ [註1]。これらは全てI-26をベースとしており、姉妹機と言える関係にあった。

そして1940年、ソ連航空機の新たな命名規則の制定に際し、これらの機体は以下の通り新たな命名が行われた。

  • I-26 ⇒ Yak-1
  • I-28 ⇒ Yak-5
  • I-30 ⇒ Yak-3
  • UTI-26 ⇒ Yak-7UTI

それまでは、「機体種別の頭文字 (戦闘機=I, 高速爆撃機=SB, 長距離爆撃機=DB など) +開発番号」で機体名を定めていた。これが新たに、「設計局の頭二文字+開発番号 (奇数:戦闘機, 偶数:爆撃機)」というものに切り替えられたのだ。今日でも使用されている「MiG-XX」「Tu-XX」「Su-XX」などのスタイルことである。

ヤコヴレフ設計局の場合は、ヤコヴレフの頭から「Yak (露:Як)」が取られ、戦闘機と練習機は奇数番号を用いる決まりなので、1から順に3, 5, 7...と割り当てられたというわけだ。

詳しくは『ソ連機の命名規則』を参照のこと。

 

さて、上記の中に一つ、見覚えのある名前がないだろうか? そう「Yak-3」だ。

「あのYak-3は、この時から開発が始まっていたのか?」と考える人が居るかもしれないが、このYak-3は1944年の新型機Yak-3とは別の機体だ

以下I-30のYak-3は "初代Yak-3"、1944年に現れたYak-3は "二代目Yak-3" とする。


[註1]:初期には、I-28はI-26VやI-26Nであったり、I-30はI-26Uだったりしたそうだ。書類上での話なので割愛。

pic02:I-30/Yak-3 試作戦闘機。プロペラ軸と両翼内に20 mm機関砲を備えており当時としては中々に高火力
Photo from:http://www.airwar.ru/enc/fww2/i30.html

今回は機体解説の記事ではないため詳細は省くが、初代Yak-3 (元I-30) とYak-5 (元I-28) はどちらも採用されることはなく終わった。端的に言えば、そんないくつも戦闘機を開発している余裕は無かったのである。

 

初代Yak-3とYak-5は不採用、これらの名はそのまま航空史の中に消える筈だったのだが……実際はそうはならなかった。ソ連には何とも困ったことに、「不採用に終わった機体名を再利用する」という悪い癖があったのだ。

彼らは一度不採用となった"Yak-3"の名前を、1944年に完成した新型機 "二代目Yak-3" として再利用したのである。これがYak戦闘機シリーズの数字逆転現象の経緯である。

pic03 (左/上):I-28/Yak-5 試作高高度戦闘機、高高度向けのM-105PDエンジンを装備していた
Photo from:http://www.airwar.ru/enc/fww2/yak5.html
pic04 (右/下):UT-2Lと似た外見を持つが、単座で格納式の降着装置を持つ
Photo from:http://www.airwar.ru/enc/other2/yak5.html

実は "Yak-3" だけでなく"Yak-5" もまたその名が再利用されており、後に開発された練習機に付けられている。それが1944年の二代目Yak-5だ。

同設計局のUT-2Lという複座練習機をベースにしており、試験等も進んでいたのだが、「これからは全金属製なのに、戦闘機パイロット育成する機体が木製なのは……ちょっとね」となり、結局不採用に終わってしまった。初代も二代目も表舞台に出ることは無かったため、"Yak-5" の名が世に知られることは無かったのである。

I-26をベースとする姉妹機達のうち、最終的に採用されたのはYak-1 (戦闘機) とYak-7UTI (戦闘練習機) であった。

しかしながら、独ソの戦いが始まってしまったために、Yak-7UTIは単座戦闘機化され、Yak-7戦闘機として生産される事となった。戦闘機が1機でも多く必要な状況だった為だ。今動いている練習機の生産ラインを、そのまま戦闘機に置き換えるのである。

 

Yak-1とYak-7はどちらも並行して生産が行われた訳だが、不思議とそれらは異なる発展を遂げていった。

 

Yak-1は当初、エンジンの強化 (M-105P→PA→PF) や各部の空力的洗練、突出型風防への改修など、あまり大きくない規模の改修をするにとどまっていた。

 

しかし大戦の半ばに入ると、ドイツ機を凌駕する戦闘機を開発すべく、徹底的な軽量化と空力洗練に主眼を置いて改修されたYak-1Mが試作され、これが二代目のYak-3として採用された。航続距離は短く、後期の機体としては火力も低めなものの、卓越した中低高度性能を手にすることができた。

pic05:UTI-26 試作高等練習機の一号機。新型高速液冷機へ慣熟する為の練習機として開発された
Photo from:http://www.airwar.ru/enc/other2/uti26.html

一方Yak-7も、当初はYak-1と同様の強化が施されていた。1942年にYak-7を長距離複座偵察機としたYak-7Dが試作され、それを単座戦闘機化したYak-7DIがYak-9として採用された。この流れの中で、Yak-7が元々練習機であったために残されていた余分な要素がそぎ落とされ、戦闘機としての完成度が高められた。そして、この機体をベースに数多くの派生型が生まれることとなった。

37mm機関砲を搭載したYak-9T、さらに強力な45mm砲を搭載したYak-9K、長距離型のYak-9D、カメラを搭載した偵察型のYak-9R、爆弾倉を持つ戦闘爆撃型のYak-9B、更にはYak-3の空力洗練を元に強化・改修を行ったYak-9Uなどなど……試作機をも含めれば膨大な数になるだろう。

 

Yak-1が一つのコンセプトに絞った方向 (二代目Yak-3) に進んだ一方、Yak-7はバリエーションに富んだYak-9シリーズへと進んだのは、ある意味対照的とも言える。

 

採用された機体と一部試作型のみであるが、I-26を祖とするYakシリーズの開発の流れを図とすると次のようになる。

最初の分岐でYak-1 (I-26系) とYak-7 (UTI-26系) に分かれ、以降これらが交わることは基本的には無い。あるのはYak-3とYak-9U間の明確なフィードバック (主に空力的な洗練) くらいである。それを除けばこの2つの流れに直接的な繋がりは見られない [註3]

よく似た外見で、大元を辿れば同じ一つの機体に行きつく彼女達だが、実際にはそれぞれ異なる発展を遂げていたのである。

 

I-26を祖とする機体たちは、戦後になっても複数作られている。

Yak-9Uを全金属化したYak-9P、Yak-3をベースに開発されたジェット戦闘機─Yak-15/17、同じくYak-3ベースで低出力空冷エンジンを搭載したYak-11練習機などが開発されている。これ以降の機体は新規設計によるものである事から、これらがI-26より派生した開発の流れの到達点となっている。

 

ここまで長々と書いたが、上記の"家系図"を見た方が手っ取り早く分かりやすいのではないだろうか……。


[註3]:もちろん細かなフィードバックはあるし、計画機や試作機のデータは機種を超えて用いられている筈だ。だが特定の機種同士での直接的な関りはほぼない。

という訳で、Yak-1, Yak-7, Yak-9, Yak-3、そしてこれらの姉妹と呼べる派生機たち、Yakシリーズの流れについては以上である。

 

ナンバリングが逆転してしまった経緯や、どこから何が派生して生まれたかなど、この辺のややこしい話が少しでも分かっていただければ幸いだ。

 

ついでに影の薄いYak-5たちのことも覚えて貰えたらと思う。


この記事はfc2ブログの旧館にて掲載していた「ちょっとややこしいYakシリーズ」の内容を増やしたり、一部修正したものです。


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【参考】

※昔 (2016年) fc2ブログ時代に書いたものなので、思い出しつつ追加中……(2022年)

 

全体的な話:

■『世界の傑作機 No.138 WWII ヤコヴレフ戦闘機』, 文林堂,(2010)

その他Yak戦闘機本を読んだ上で書いているが、大体は上と被る程度の内容しかこの記事には含まれていないと思う。

 

以下全面更新 (2022/05/02) に際し追加:

二代目Yak-5に関して:

■『Yakovlev Aircraft since 1924』Bill Gunston, Yefim Gordon, putnam aeronautical books, (1997)

pp. 91-92